シロアリ被害がある家や、過去にシロアリ駆除をした家でも売却することはできます。
ただし、売主が把握しているシロアリ被害や駆除・修理の履歴を曖昧にしたまま売るのは避けた方がよいでしょう。
不動産取引では、売買契約でどのような状態の住宅を引き渡すと合意したかが重要になります。実際の住宅が契約内容に適合していなければ、買主から修補、代金減額、損害賠償、契約解除などを求められる問題につながることがあります。
一方、「過去にシロアリが出た家なら必ず契約不適合になる」「告知し忘れれば必ず契約解除になる」と一律に決まるわけでもありません。
売却前には、現在の被害、過去の被害、駆除時期、修理内容、保証書など、分かっている事実を整理して仲介会社へ共有し、契約書類へ反映することが重要です。
シロアリ被害がある家でも売却できる
シロアリ被害や駆除歴があること自体によって、不動産を売却できなくなるわけではありません。
実際の売り方としては、住宅の状態に応じて、
- 現状のまま売却する
- シロアリを駆除してから売却する
- 駆除と被害木部の修理をしてから売却する
といった選択肢があります。
どの方法が適しているかは、被害の範囲、建物価格、築年数、修理費、売却予定価格などによって変わります。
「シロアリ歴があるから売れない」と考えて被害履歴を伏せるのではなく、現在の状態を整理したうえで売却方法を決める方が、売却後の認識違いを防ぎやすくなります。
売却時には何を伝えるべきか
不動産取引で使われる物件状況報告書・告知書では、住宅について売主が知っている状態や過去の履歴を記載します。
不動産適正取引推進機構(RETIO)が公開している戸建住宅向けの告知書参考例では、「シロアリの害」という項目が設けられています。
そこでは、現在の被害の有無だけでなく、過去の履歴についても記載する形式になっています。
シロアリ被害が「有」の場合は、
- 現状のまま引き渡す
- 駆除して引き渡す
- 駆除と修理をしたうえで引き渡す
といった状態を記載できる構成です。
実際の売却では、仲介会社が使用する書式に従い、少なくとも次の情報を整理しておくとよいでしょう。
- 現在シロアリが確認されているか
- 過去にシロアリ被害があったか
- いつ発見したか
- どの場所に被害があったか
- いつ駆除したか
- どの会社へ依頼したか
- どの範囲を施工したか
- 被害木部を修理したか
- 保証期間が残っているか
- 施工報告書や保証書が残っているか
駆除済みでも過去の被害歴は伝える
「もう駆除したのだから、昔のシロアリについては言わなくてもよいのでは」と考えることがあります。
しかし、駆除によって現在のシロアリ活動がなくなっていても、過去にどこまで木材が食害されたか、どの範囲を補修したかは住宅の状態を判断する情報になります。
RETIOの告知書参考例でも、現在のシロアリ被害とは別に「過去の履歴」を記載する形式になっています。
そのため、
- 過去に発生した
- 専門業者に駆除を依頼した
- 被害箇所を補修した
- 現在は保証期間中である
といった内容を整理して伝える方が、不動産取引上は扱いやすくなります。
駆除記録や保証書が残っていれば、過去に問題があったことだけでなく、その後どのように対処したかも示せます。
「シロアリ被害=必ず契約不適合」ではない
シロアリに関する記事では、「被害があれば契約不適合責任になる」と単純に説明されることがあります。
しかし、実際には個別の契約内容や被害の程度によって判断が変わります。
2024年6月26日の東京地裁の事例では、中古住宅の購入後に、売主から告知されていなかったシロアリ浸食跡が見つかりました。
買主は契約解除や損害賠償などを求めましたが、裁判所は、その浸食跡があることだけでは建物に瑕疵があるとはいえないとして請求を認めませんでした。
一方、過去の裁判例には、シロアリによる侵食が進んだ箇所について建物の瑕疵が認められた事例もあります。
つまり、
- シロアリの痕跡があるだけなのか
- 現在も活動しているのか
- 構造材がどこまで損傷しているか
- 補修が必要な状態なのか
- 売買契約で住宅の状態をどう定めたか
- 売主が何を知っていたか
- 買主へ何を説明したか
などによって結論が変わります。
契約不適合責任とは
現在の民法では、売主は契約内容に適合した目的物を引き渡す義務を負います。
引き渡された住宅が契約の内容に適合していない場合、状況に応じて買主から、
- 修補などの履行の追完
- 代金の減額
- 損害賠償
- 契約解除
が問題になることがあります。
東京都住宅政策本部の「不動産取引の手引き」でも、契約不適合がある場合の追完請求、代金減額請求、損害賠償、解除について説明されています。
重要なのは、「住宅に何か不具合があるか」だけではなく、その状態が売買契約で合意した内容と適合しているかです。
シロアリ被害の存在やその範囲を契約前に買主へ伝え、その状態を前提に売買契約を締結しているケースと、「シロアリ被害なし」という前提で契約したケースでは、判断の前提が違います。
知っている被害を故意に隠すのは避ける
過去の判例では、売主や仲介会社が重要な不具合を知りながら適切に説明しなかったことについて責任が認められたケースがあります。
2008年5月の大阪地裁事例では、仲介した宅地建物取引業者が、雨漏りによる腐食やシロアリ被害など、居住目的が実現できない可能性を示す情報を認識していた場合、買主へ積極的に告知すべき注意義務があると判断されています。
また、RETIOが紹介する他の事例でも、売主が知っていた雨漏りなどの重要な情報を故意に告げなかったことについて責任が認められています。
そのため、売却価格への影響を恐れて、把握している被害や過去の駆除歴を「聞かれなかったから言わない」とするのは避けた方がよいでしょう。
告知書には事実ベースで書く
シロアリについて告知するときは、自分で原因や被害範囲を推測して書く必要はありません。
たとえば、
- 2023年5月に浴室付近でヤマトシロアリの羽アリを確認
- 2023年6月に専門業者が床下調査を実施
- 浴室・洗面所付近に蟻道と食害を確認
- 同月に薬剤施工を実施
- 被害木部の一部を修理
- 2028年6月まで施工保証あり
というように、分かっている事実を時系列で整理します。
逆に、専門調査をしていないにもかかわらず、
「完全に駆除済み」
「構造には絶対問題がない」
などと断定する必要はありません。
施工報告書や保証書は残しておく
シロアリ施工を行った場合は、売却時まで次の資料を保管しておくと状況を説明しやすくなります。
- 点検報告書
- 被害箇所の写真
- 見積書
- 施工契約書
- 施工報告書
- 使用薬剤・工法が分かる資料
- 保証書
- 木部補修の領収書や工事記録
「シロアリが出た」という情報だけの場合と、「被害箇所を専門調査し、駆除・補修を行い、保証書も残っている」という場合では、買主が確認できる情報量が大きく違います。
現在の状態が分からないなら売却前に点検を検討する
10年前にシロアリを駆除したものの、その後まったく点検していない場合などは、現在の状態が分からないことがあります。
その場合、売却前にシロアリ専門業者へ床下点検を依頼する方法があります。
特に、
- 過去にシロアリ被害がある
- 過去の施工から長期間経過している
- 保証期限が切れている
- 羽アリを最近見た
- 基礎に蟻道らしいものがある
- 床が沈む・きしむ
- 水漏れや雨漏りの履歴がある
場合は、現在の状況を把握してから売却条件を決める方が整理しやすくなります。
シロアリ対策全体については、シロアリ対策の総合ページも参考にしてください。
一般的なインスペクションだけでシロアリまで十分に分かるとは限らない
中古住宅の売却前には、建物状況調査、いわゆるインスペクションを検討することがあります。
国土交通省の建物状況調査は、既存住宅状況調査技術者である建築士が、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分について、劣化・不具合等を調査する制度です。
ただし、国土交通省の「安心R住宅」の案内でも、シロアリ対策については専門の調査会社等へ相談するよう案内されています。
また、国土交通省資料でも、建物検査では床下を確認する場合がある一方、シロアリ被害が床下の奥に潜んでいることがあるため、必要に応じて専門会社による詳細なシロアリ点検を行う重要性が示されています。
そのため、
建物状況調査をしたから、シロアリ点検も完全に終わっている
とは考えない方がよいでしょう。
売却前にシロアリを駆除した方がよいのか
現在シロアリが活動していることが確認されているなら、駆除してから売却する方法は有力な選択肢です。
ただし、必ず売主側で駆除・修理を完了しなければ売却できないわけではありません。
住宅価格や築年数によっては、被害状況を開示したうえで現状渡しとし、買主側が取得後に修理する契約も考えられます。
比較したいのは、
| 方法 | 確認したいこと |
|---|---|
| 現状のまま売る | 被害内容をどこまで把握しているか、価格へどう反映するか |
| 駆除して売る | 駆除費用、保証、残存する食害部分 |
| 駆除+修理して売る | 修理費に対して売却価格がどこまで改善するか |
です。
先に高額な補修工事をしても、その全額が売却価格へ上乗せできるとは限りません。
被害の程度を確認したうえで、不動産会社と売却価格、駆除業者と施工費をそれぞれ確認して判断します。
シロアリ被害があると売却価格は必ず下がる?
一律の値下がり率はありません。
価格への影響は、
- 現在もシロアリが活動しているか
- 過去の被害だけか
- 構造材まで被害があるか
- 補修済みか
- 駆除保証が残っているか
- 築年数
- 土地価格と建物価格の割合
- 建て替え前提の買主か
などによって大きく変わります。
過去にシロアリ被害があったという一点だけから、「相場より○%下がる」と断定する根拠はありません。
契約不適合責任の免責特約があれば告知しなくてよい?
売買契約では、売主の契約不適合責任について期間や対象を限定する特約を設けることがあります。
ただし、特約があるからといって、売主が知っている重要な事実をあえて伏せてよいという意味ではありません。
また、売主が不動産会社など宅地建物取引業者なのか、個人なのか、買主が消費者なのかによって適用される規制も異なります。
責任をどこまで限定できるかは契約ごとに変わるため、実際の契約書は仲介会社の宅地建物取引士や、必要に応じて弁護士へ確認してください。
査定を依頼する段階から不動産会社へ伝える
買主が決まって契約直前になってからシロアリ歴を伝えるより、不動産会社へ査定を依頼する段階で共有しておく方が進めやすくなります。
査定時には、
- 被害を発見した時期
- 駆除済みか
- 修理済みか
- 保証書があるか
- 最近点検したか
を伝えます。
現在の状態が分からなければ、その時点で専門点検を行うか、不明であることを前提に売り出すかを相談できます。
売却までの進め方
- 過去の資料を集める
点検報告書、施工記録、保証書、補修記録を確認します。 - 仲介会社へ被害・駆除歴を共有する
査定段階から分かっていることを伝えます。 - 現在の状態が不明なら点検を検討する
必要に応じてシロアリ専門点検を行います。 - 駆除・補修するか判断する
施工費と売却価格への影響を比較します。 - 告知書へ具体的に記載する
推測ではなく確認できている事実を書きます。 - 売買契約書の責任範囲を確認する
契約不適合責任の期間、対象、特約等を確認します。 - 買主へ資料を引き継ぐ
保証書など引き継げる資料があれば渡します。
売却前に専門家へ確認した方がよいケース
次のようなケースでは、仲介会社だけでなくシロアリ業者、建築士、必要に応じて弁護士等へ確認する方がよいことがあります。
- 現在もシロアリが活動している
- 柱・土台などの構造材に大きな食害がある
- 過去の駆除範囲が分からない
- 雨漏りや腐朽も同時にある
- 大規模な修理が必要
- 売却後の責任について買主と特約を設けたい
- 過去の被害をどこまで告知すべきか判断できない
- すでに売買契約締結後に新たな被害が判明した
シロアリ点検・駆除業者を選ぶ場合は、害獣・害虫駆除業者の選び方、費用を確認する場合は害獣・害虫駆除の費用・相場も参考にしてください。
よくある質問
昔シロアリが出ましたが、駆除済みなら売却時に言わなくてよいですか?
過去の被害・駆除歴も仲介会社へ共有し、物件状況報告書等へ事実を記載する方が適切です。RETIOの告知書参考例も、シロアリについて過去の履歴を記載する形式になっています。
シロアリ被害を告知しなかったら必ず契約解除されますか?
必ずではありません。被害の程度、契約内容、売主が認識していたか、買主へどのような説明がされていたかなどによって判断されます。2024年の東京地裁事例では、未告知のシロアリ浸食跡があっても、それだけでは建物の瑕疵とはいえないとして買主の請求が棄却されています。
シロアリ駆除歴があると家は売れませんか?
駆除歴があること自体で売却できなくなるわけではありません。現在の被害状況、補修状況、施工記録、保証などを整理して買主へ説明できる状態にすることが重要です。
売る前に必ずシロアリ点検を受ける必要がありますか?
すべての住宅に一律でシロアリ専門点検が義務付けられているわけではありません。ただし、過去の被害歴があり現在の状態が不明な場合などは、売却前に専門点検を行うと状況を整理しやすくなります。
インスペクションを受ければシロアリ点検は不要ですか?
同じものではありません。国土交通省の建物状況調査は構造耐力上主要な部分や雨水侵入防止部分の劣化等を確認する制度で、国土交通省もシロアリ対策は専門調査会社等への相談を案内しています。シロアリが特に懸念される場合は専門点検を検討します。
現状渡しならシロアリについて責任を負わなくてよいですか?
「現状渡し」という言葉だけで責任関係がすべて決まるわけではありません。どの状態を買主へ説明し、売買契約で何を合意したかが重要です。具体的な特約や責任期間は契約書で確認してください。
シロアリの保証書は買主へ渡した方がよいですか?
施工履歴を示す資料として有用です。ただし保証を新しい所有者へ引き継げるかは施工会社の保証条件によって異なるため、施工会社へ確認してください。
参考情報
- 一般財団法人 不動産適正取引推進機構「物件状況報告(告知)書 戸建住宅の場合の参考例」
- 一般財団法人 不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
- 東京都住宅政策本部「不動産取引の手引き」
- 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査」
- 国土交通省「安心R住宅」
